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ありそうでなかった大御所構造家の作品解説本-構造計画の原理と実践

2010年04月11日 19:07

構造計画の原理と実践
金箱 温春
建築技術
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本の存在を知ってすぐに購入。
意外にもこういった構造家本人の作品解説本は存在しない。

本人が書いたもので無ければ「SPACE STRUCTURE―木村俊彦の設計理念」だったり、
若手構造家の方々の講演の内容をまとめた「ヴィヴィッド・テクノロジー―建築を触発する構造デザイン」などは、
構造家の考えがまとまっていて面白いが、
本書は1人の構造家本人が著者となっていることに大きな意味がある。

しかも本書はただの作品解説本ではない。
タイトルからもわかるように、「原理」を体系的に説明しているところに価値がある。

実は、本書はとある大学院の授業と内容・順序がほぼ同じである。
大学院の授業の内容だからといって学部生が理解できないほど難解なものではない。
是非とも、授業を受けられないすべての建築学生に読んでほしい。
無論、ベテランの方が読んでも面白いはずである。


(以下、レポート)



●構造デザインの目的

 構造デザインとは、如何にして部材断面を細くし、その存在を霞ませるかが主眼であると、多くの作品を注視することにより感得していた。そして、それが大きな基準となり、構造の良し悪しの個人的判断に至っていた。勿論、経済性・機能性・意匠性、或いは現代の時流などを考慮すれば、重要な判断材料ではある。
 しかしながら、構造デザインの本義は「空間の質を満たす」事であって、上述の主眼はそのための手段であり結果であるという根源的な事実に講義を経て気付かされた。



●空間の質の変化

 具体的にそれを感じたのは、斜めの柱だ。柱が斜めになることは、地震時における構造的な有利性も存在することながら、それ以上に、それが創りだす空間が特長だ。例えば、沖縄県総合福祉センターや老人福祉施設ベルホームなどのV字型の柱が連続した空間は、鉛直なそれが創り出す空間よりも、実質的に有効な下部空間(柱で区切られるひと纏まりの空間)が広がり、同時に開放感も生まれる。ただ単純に、細さだけを追求したのでは得られない空間がそこにはある。
 取り分け、斜めの柱が妙手であると感銘を受けたのは、大空間或いは大スパンにおいてである。大きな空間を創り出す場面において、柱という存在は絶対的なタブーであると思い込んでいた。その柱の存在は、ごく明快な問題に起因する明快な構造形態であるが、空間を損なわない場合も存在する事を知った。例えば、ぐんま昆虫観察館におけるそれは、(それ自身も軽快な印象を受けたが)非常に軽快な屋根を実現し、全体としても良い意味で構造体を意識させない空間になっていると感じる。それは建築家の意図した空間を、構造が妨げていない事を意味する。
 また、大スパンにおける端部の柱を斜めにする事によって得られる空間も同様に感じた。例えば遊水館におけるそれだ。大スパンを成す端部の柱をV字とすることにより、その上に架かる曲げ材のスパンは小さくなり、且つ、下部の空間は更に大きくなる。簡単な形態操作ではあるが合理的。また、その拡大された空間から醸し出される緊張感故の魅力。
 たった数本の柱の単純な操作が、空間の質を劇的に変える奇跡を見た。



●構造デザイン

 上述の事は、建築家も、細かな思いの違いは存在すれども、同様に感じているからこそ、多くの作品で実現している形態なのだと分かる。
 一定の構造的合理性を備えつつ、積極的に建築家をしてイエスと言わしめる空間を創り出す事こそが、構造家の役目であり、構造デザインだと感じた。



●基本的概念の応用

 また、今回の講義によって非常に強く感じたのが、多くの建築の構造は、既知の基本的知識、或いはその応用で成り立っているという事だ。特に後者について驚かされた。例えば、部材にヒエラルキーがある場合の力の流れ方については認識していた。小梁から大梁に力が流れていくという事実。その事実があるからこそ、空間を跨ぐ大梁は成を抑えるべく短手方向に架けるものだと考えていた。しかしながら、麻生町民体育館における屋根の構造は、大梁となるトラスを長手方向に通し、小梁となる張弦梁は短手方向に架けられている。トラスは大きく存在するが、しかし象徴的であり、張弦梁はスパンが半分になることにより、とても成の短く、そして細い下弦材により成り立っていた。これは、帰する所、力の流れを応用しているに過ぎないのだが。
 同様に、フィーレンディール・トラス・ウォールガーダーなどにより、大スパンや大きなキャンチレバーを実現可能にするという事は認識していた。例えば、ジグは見た瞬間にその原理の大要を理解できたが、札幌市都心部子供複合施設の構造は、断面模型の写真を見ても、その仕組みを理解するに至らなかった。これも言わば、フィーレンディールの応用に過ぎない。
 しかしながら、このような単純な概念の応用こそが、新たな構造形態を生み、それによって人類が未見の空間形成を可能にするのだと感じた。



●構造家

 構造そのものとは別に、感じたことがある。それは、構造を定義する「言葉」だ。
 建築家は「言葉」に敏感であり、慎重であり、故に、支配されてもいるとも個人的には感じる。そんな建築家達の多くは、「ブレース」「筋交い」を嫌っているという事実は言うまでもない。そのような中、例えば釧路子ども遊学館では、その外周の一部を構成するブレース状のものを「斜め柱」と定義している。勿論、ここでは、鉛直柱と同様の部材断面で構成しているという由来があるからこその事だとは思うが、通常ならX型の部材が地震力を負担しているという事実があれば、それを「ブレース」と定義してしまう。それを「斜め柱」と定義する事により、鉛直荷重を負担しているという事実を強調し、脳内での架構の認識が変わる。
 このプロジェクトにおいて、そのような意図があったか否かは定かではないが、必要とあらば、建築家の架構に対する感覚すらも変えていく必要があり、能動的ではないにせよ、上で述べたように、建築家をしてイエスと言わしめるための1つの手段でもあると感じた。



●まとめ

 建築の構造設計においては、重力と地震力に対し、どのように切り結ぶかという事が、地球上においては通底するテーマとして立ちはだかる。それに加えて、各プロジェクトには様々な条件が存在し、それが構造形式決定への端緒となる。そして、それらが繰り返され、建築構造界の歴史が作られてきた。
 その歴史の積み重ねの結果である、現代の構造家の作品、或いはその思想・思考を知ることにより、後世に伝わる新たな歴史の1ページを刻むべく、日々研鑽を積む事こそが、私の使命であると感じた。


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